ノートとペンのイラスト

映像翻訳の調べもの:車のレストア番組の場合

ボンネットを開けた車のエンジンルームが並ぶ様子

映像翻訳の仕事で、時々車の番組を担当することがあります。古い車をレストアして、また走れるようにするタイプの番組です。

こういう作品を訳す時、私の場合、最初にぶつかる壁は英語ではありません。そもそも画面の中で何が行われているのか分からない、というところから始まります汗。整備担当のキャラが何かのパーツを外し、何かを測り、「よし、これで大丈夫だ」と言う。その一連の作業が理解できていないと、英語スクリプトが手元にあっても訳せないんです。

なので私は、調べる目的によって、開くサイトを変えるようにしています。今日はその順番の話を書いてみます。

まずは、動画で「作業を見る」

分からない作業が出てきたら、まずYouTubeを開きます。

検索するのは、公式のきれいな解説動画ではなく、地元の車屋さんや、趣味で車をいじっている方が撮った動画です。手元をずっと映していて、「ここのボルトが固いんだよなあ」とぼやきながら作業してくれるような動画。これがいちばん役に立ちます。作業の順番、どこにどう力をかけるのか、なぜその工程が必要なのかが、見ているうちに分かってきます。

ここで、その作業の日本語での呼び方も一緒に耳に入ってきます。ただ、そこで覚えた言葉を、そのまま字幕やナレーションに使えるとは限りません。

次に、オフィシャルなサイトにある言葉で「裏を取る」

動画の中で使われているのは、現場で通じる、こなれた言い方です。実際に手を動かしている人の言葉なので、生きた表現ではあります。ただ、俗称だったり、その地域や世代だけの言い方だったりすることもあります。放送に載せる言葉としてそのまま採用していいかというと、そうとも言い切れません。

そこで二段構えにします。動画で作業を理解したら、今度は自動車メーカーの公式サイトや、部品メーカー・工業部品の商社が出している用語集を開いて、同じものを何と呼んでいるかを確かめます。特に機械要素を扱う商社の用語ページは、部品の定義がきちんと書かれていて助かります。

つまり、「理解するための調べもの」と「その日本語を採用していいか確かめるための調べもの」は別、ということです。

直訳が、現場の呼び名と違うことがある

車の調べものでよく遭遇するのですが、英語のパーツ名をそのままカタカナにしても、日本の整備の現場ではそう呼んでいないこともあります。歯車の名前など、英語の呼び方をなぞったカタカナと、日本で定着している言い方が食い違っていることもあります。辞書を引いて出てきた語をそのまま置いてしまうと、詳しい方が観たときに「?」となるかもしれません。

こういうときは、「英語で何と言うか」ではなく「日本の現場で何と呼ばれているか」を探しに行く必要があります。

車と関係ないサイトも、たくさん開く

実は車の番組を訳しているとき、車とは関係のないサイトにも多くアクセスします。

ロケ地の風景を紹介するナレーションが入れば、旅行会社の観光ページを見て、自然な日本語の言い回しを探します。単位が出てくれば換算表を開いたりもします。フィートで語られた距離を、日本の視聴者がすっと受け取れる形に直す必要があるからです。

車の番組を訳すにも、色々な知識が必要だなあと毎回思います。

シリーズものは、過去の用語とそろえる

長く続いている番組を担当するときは、もうひとつ作業が増えます。過去のシーズンで、その語をどう表記していたかを確認することです。

同じパーツでも「ギヤ」と書くか「ギア」と書くかという問題もあります。どちらも間違いではありませんが、シリーズを通して観ている方にとっては、揺れていると気になるものです。なので過去の原稿にあたって、そちらに合わせます。

それでも分からない時は…

そして…どれだけ調べても分からないものが、毎回いくつか残ります。

検索してもまったくヒットしない言い方。裏の取れない数値。話者の言い間違いかもしれない箇所。

そういうとき私は、申し送りに正直に書くようにしています。「調べましたが裏が取れませんでした」と書いたうえで、どこまで調べたのか、どう判断してその訳にしたのかを書きます。場合によっては「この方針でいくならこちら」と別案も並べて出します。

調べものは、答えを見つける作業のように思われがちですが、実際には「どこまで確かめられて、どこから先は判断なのか」を仕分ける作業なのかなとも思います。

車が好きな方は多いので、そういった方たちが違和感を持たないよう、またドキュメンタリー番組なので正確な情報を伝えられるよう、これからも奮闘を続けます!

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